「ケ〆とはじめ -鶴の恩返し-」

四方山話し-1

赤鬼さん

 

赤鬼さん。

 

女将のぞうりと言われて一番初めに思い浮かぶのが、この漆の朱のおぞうり。

生涯でもっとも愛用した一つ。

まだ母が京都の匂いよりも神戸の思いを多く持っていた30代、

母にとって西洋と日本の橋渡しになったモノではないだろうか。

先代が創ったはきものを、純粋な、ウキウキした様子で見せてくれた。そんな記憶が朧げに残っている。

西高東低の気分が蔓延する時代の中で、日本の価値や自分たちの意味が、この品物を通して感じられたのではないか。

このはきものの特徴は何と言っても、「生きていること」

漆の経年変化により、年月をかけて色鮮やかに成る。

年月を重ねるごとに明るくなって行く様は、磨かれていく内面の美しさを表しているかのよう。

歳を重ねれば、老いて行き、衰えていく。その事を内包し前に押し進め、勇気づける。

ブツケテ傷になったとしても、修復する。

 

 

 

 

漆という日本を代表する方法が、海外でJapanと呼ばれることを知った時は

何だかすごく乱暴な気がしたのを覚えている。

今では、この国を外から見た人が、その名を与えた気分が爽やかに感じる

この品物が生まれて約50年。多くの方々にご愛用いただくようになった漆のぞうり。

日本の赤の力は、絶大。周りを明るく照らす。

自己主張が強く扱いにくそうに見えるのだが、調和の要となり、装いをまとめ、引き立てる色。

お持ちになられる方々が口々に仰ることは、初めて女将さんに勧められた時には、

「びっくりした」とか「そんな勇気ないわ」とか….

しかし一度足を通してしまえば、もう後戻りは出来ない。Japanの魅力。

親しみをこめて私たちは赤の漆のおぞうりを「赤鬼さん」と呼んでいる。

もちろんその隣には青鬼さんが。

そのお話はまた次回に。