「ケ〆とはじめ -鶴の恩返し-」

四方山話し-5

古裂数寄ー息吹くモノ語り

 

同じ生地からとった花緒をすげた、目的も同じおはきもの。

同じ花緒でも印象がはっきりと違うところが面白い。

 

 

そして、女将がどれほど気に入っていたのかが伺える。

この生地、元は布団として長く 活躍したのちに古裂として収集され、刺し子が施されたものを花緒に仕立てた。

刺し子を施したのは、大阪に住まいのお客様のMさん、とても素晴らしい古裂コレクションとセンス、手わざの持ち主。

女将といつも楽しそうにお話をしていた姿が懐かしい。

昔お世話になった大工の棟梁が、「作意、工夫が出来てから材料を探しては間に合わない。」

 

「いつ使うかわからない、どう使うかもわからない材料をストックして、アイディアが生まれた時には既に材料がないといけない。」

 

と話してくださったのを思い出す。

 

Mさんの小布のコレクションは膨大で、素晴らしかったと聞いている。

 

どこに何があるのか、どこに書いているわけでもないけれど、「えーっと確かこの辺に……あった。」

 

そんな感じで全ては頭の中にインプットされているのである。

 

このMさん、小柄で華奢な、とても上品なお方で、お仕事ぶりが、玄人はだしというか、玄人以上というべきか。

Mさんのように、素人・玄人の境など全く意に介さず、ただその世界を好きで、数寄で傾倒し、没頭する詳しい方々が、ひと昔前まではたくさんいらしたように思う。

技術も社会も変化して、日本のどこでも同じ情報や楽しみが享受できるようになった反面、Mさんのような方々との出会いは少なくなってしまった。

懐かしい気持ちは、いつも少し寂しさを連れてくる。

 

 

台 酒袋コルク仕立て / 花緒 古裂刺し子


 

 

台 モミ皮黒 / 花緒 古裂刺し子