「ケ〆とはじめ -鶴の恩返し-」

自分でも知らなかった「私」。お母さまがたくさん見つけてくれましたね。

藤田かおりさま

 

私は京都に住んでおりますが、

東京にある森田空美先生の着付け教室へと通っております。

 

森田先生は以前から鶴子さんと親しくされていたので、

ほとんどが「ない藤」さんの、おはきもの。

私は先生に憧れて、お店にお伺いしたのが始まりです。

20年近く前のことです。

 

鶴子さんと初めてお会いした時は、

こちらが怯んでしまうほどの圧倒的なオーラを感じました。

そのせいでしょうか、とても緊張していたようで、

あの日のことをあまりよく覚えておりません。

 

 

その後に、私の母もずっと「ない藤」さんのお装履を愛用していたことを知りました。

それからは母と頻繁にお店へお邪魔するようになって、

鶴子さんには随分と可愛がっていただきました。

 

「かおりさん、かおりさん」

 

と、鶴子さんが頼りにしてくれたので、私も自然と

 

「お母さま」

 

とお呼びするように。

 

以来、お手伝いに伺ったり、実の娘さんをご紹介いただいたり、

お出かけやお食事もご一緒するようになりました。

 

お母さんが入院した病院にもお見舞いに伺いました……。

 

 

今日のおはきものは、お母さまにお見立ていただいたものです。

 

ロービキの台に、天は白、巻きは淡い水色、

そして花緒は白に近いシルバーグレーを合わせてくださいました。

 

「あなたはベージュよりもグレーが似合うわ」

 

このおはきものは、どんな装いにも本当によく馴染みます。

おかげさまで私の定番となりまして、

古くなっては同じものをお願いし、この装履で3代目となりました。

 

私の好みをよく理解してくださっていたので、

私が選ぶよりも、お母さまにお見立てしてもらうのが、

一番間違いがありませんでした。

 

「お母さま、どうしたらいい?」

 

と聞くと、先坪まで的確なアドバイスをくださいました。

 

「かおりさんは朱じゃないから、こっちよ」

 

しばらくすると、「こんなのが欲しかった」という理想のおはきものが届きます。

 

自分でさえ気が付いていなかった「私」を、随分と発見していただいたなと思います。

 

森田空美先生の世界、そして華やかなお母さまの世界。

 

どちらの魅力も知ったことで、

私らしさや個性を大切に選ぶようになった気がいたします。

 
 

撮影/緒方亜衣
取材・文/笹本絵里