「ケ〆とはじめ -鶴の恩返し-」
岩城夏里奈さま
このお装履は、両親からの成人のお祝い。
私の祖父の妹でいらっしゃる鶴子大叔母さまが、生前にお見立てくださいました。
お店には母と一緒に伺いました。台も花緒も賑やかなものからおとなしい色柄まで
が美しくさまざまに並んでいて、とても心が躍りました。
店内を眺めていると鶴子大叔母さまが、
「一足目の台はオーソドックスなタイプがお勧めよ」と汎用性の高い台を選んでくださいました。
「けれど花緒は年齢とともに変えていけるの。だから、今履きたいと思った気持ちで選んでいいのよ」
と仰ってくださいました。
どれも素敵で目移りしてしまい、戸惑う私。
最終的には鶴子大叔母さまがお見立てしてくださいました。
お正月や友人の結婚式でお装履に足を入れるたびに、
その時の会話やほのかな香りを思い出し、優しい気持ちになります。
鶴子大叔母さまから譲っていただいたこの振袖と一緒に大切にしています。
今日はそのお装履と振袖に、鶴のかんざしを合わせ、
大叔母さま尽くしの装いで参りました。
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叔母さまは、私の憧れ。いつもお洒落なお姉さまでした
岩城奈津さま(夏里奈さまのお母さま)
鶴子叔母さまに、娘・夏里奈の装履をお見立ていただいた後、
「これ、よかったら」
と、出してくださったのが、娘の着ている振袖です。
それは鶴子叔母さまに、義姉にあたる私の母の(実家)清水家より、婚礼祝いとしてお贈りしたものだったそうです。
「夏里奈ちゃんに、もう一度振袖に仕立ててあげたらどうかしら」
と言って、お譲りくださいました。
阪神大震災以降、多くのものを失い、様々なことで疎遠になっていた亡き母の実家とを繋いでくださる心遣いに涙が溢れました。
「でも少し、色をかけた方がいいわね」
その後、たまご色の地色を薄桃色に染め替え、仕立ての手順もご助言くださいました。さらに母の残した着物の色かけのアドバイスも。
娘と二人そろって袖を通し、ない藤の装履で式典に出かけた時には、ものを通して豊かに代々つながる喜びを味わいました。叔母様なくしては実現できなかったことです。
親戚の集まりでの叔⺟さまは美しい鳥のような華やかさで、
ヨーロッパ製の⾊鮮やかな紫⾊のハンドバッグを着物に合わせていらしたのがとても印象的。
今回拝見できたご愛用の品々のように、私にとって鶴子叔母さまは、
いつだって神戸の海や山や街の風や空気をまとったエレガントでチャーミングなお姉さんでした。
迷っているときには寄り添い、慈愛に満ちて思慮深く支援してくださる
「このように歳を重ねたい」と思うチャーミングなロールモデルです。
撮影/緒方亜衣
取材・文/笹本絵里