「ケ〆とはじめ -鶴の恩返し-」
鶴子さん、想いもよらぬお色選び。いつも驚かされていましたよ。
石突泰江さま
今から20年ほど前になりましょうか。
雑誌でお見かけした「ない藤」さんのお装履が、とても素敵だったので、すぐに母とお店にお邪魔をしました。
それが鶴子さんとのお付き合いの始まりになりました。
とても可愛がっていただき、歌舞伎にご一緒するなど、
プライベートでも随分と同じ時間を過ごしました。
お装履も事あるごとにお見立てをしていただきました。
以前、「次は緑色が欲しいです」とご相談したことがありました。
私は淡いグリーンを想定していたのですが、鶴子さんが提案してくださったのは、なんと目にも鮮やかな緑。
「これは華やかすぎて、さすがに私には無理ですよ」と言ったら、「大丈夫よ」って。
そうおっしゃいながら、花緒にとても優しくて柔らかな色を挿してくださったの。
その配色があまりにも美しくて、
「お願いします」と言っておりました。
鶴子さんの発想とお色選びのセンスにはいつも驚かされていましたね。
私が想像もしない提案をして下さって、そのどれもがすごく素敵でした。
もう少し教わりたかったわ……。
最後にお会いしたのはコロナが流行り出す直前のことでした。
お足の具合が優れないようでしたので、「しっかりとリハビリをしてくださいね」と、念入りにお願いをしながら、
「次はグレーの装履が欲しいです」とお話をしたのですが、叶えることができませんでした。
誠治さん。
この後はお願いいたしますね。
今日はロービキの濃紺の装履で参りました。紬など先染めのきものにも合わせています。
優しいピンクのグラデーションの花緒は、鶴子さんに選んでいただきました。
和装でもよく使うバッグの色に合わせて作っていただいたんですよ。
撮影/緒方亜衣
取材・文/笹本絵里