「ケ〆とはじめ -鶴の恩返し-」
マドモアゼル・ユリアさま
この装履は、大学の卒業式用にと誂えたものです。
「祇園 ない藤」さんで、初めてのお誂えということもあり、
当初はさまざまな用途に合わせられる装履にする予定でした。
けれど大学の卒業式は、人生の大切な節目。
特別な気持ちで迎えたいと思い、考えを改めました。
台には「京草履」と呼ばれるタイプを。
こんなに高さのあるお装履は、なかなか見つけられません。
おめでたい席なので白にしようと決めていましたが、
この台の型で真っ白にすると、婚礼用に見えてしまうかもと思い、
巻きはシルバーにしていただきました。
それから花緒も、白に。
「絞りにしたいです」と当主の内藤さんに相談すると、
シボの部分に金彩があしらわれた花緒を見立ててくれました。
私は、立体的な表情に華やかさと品性が宿るその花緒を、一目で気に入りました。
けれど、コロナの影響で卒業式は中止。
私はせっかく誂えた装履を履くことも、
人生の節目の式典さえも迎えることができませんでした。
けれど、そのすぐ後のことです。
ロンドンの国立博物館「Victoria & Albert Museum」で開催された
「KIMNO:KYOTO TO CATWALK」という、かなり大きな規模の展覧会で
メインヴィジュアルのスタイリングを任されるという、
素晴らしい仕事が舞い込んできました。
そしてめでたく、プレビューイベントでこの装履をお披露目することができました。
海外の人たちは、
かたちの不思議なこのはきものに興味を示していました。
ヨーロッパは、はきものに対する考え方が日本と違うように思います。
靴にもデザイナーがいる歴史を見ても分かる通り、装飾品だったのです。
一方、日本では、はきものを道具として捉えてきた文化を感じます。
使いやすさ、履きやすさを主とするので、
無駄な要素が一切ありません。
日本のはきものには、
究極の用の美を感じます。
女将さんの魅力は、周囲の方々からのお話でたくさん伺っていましたが、
私自身は、とうとうお会いすることが叶いませんでした。
けれど今回、女将さんのパーソナルな展示品を拝見することができました。
中でも、ベークライトやルーサイトという樹脂素材のバッグを見て驚きました。
これらは50〜60年代頃、バッグやサングラスなどに多用されていた素材。
当時とても流行っていました。
上皇后である美智子さまもお持ちになっていたんですよ。
実は私も型違いで持っています。
女将さんの世界観に共感できて、とても楽しく拝見しました。
当時のおしゃれや流行のお話、伺ってみたかったです。
撮影/緒方亜衣
取材・文/笹本絵里