「ケ〆とはじめ -鶴の恩返し-」

鶴子さん、西と東の価値観の相違で 初めは私たち、随分と会話を重ねましたね

森田空美さま

 

以前鶴子さんに、ワントーンで誂えていただいた装履で参りました。

 

普段なら喪に服す際は、坪の色を変えていただきます。

けれど今日は鶴子さんにご挨拶を、という気持ちもあったので、

おしゃれな彼女に喜んでもらえるかしらと、少し華やかに、モダンな雰囲気を残すことにしました。

 

鶴子さんを思い浮かべると、穏やかな空間で微笑んでいたあの、お顔です。

この会場に来たら、もしかしてその笑顔にお会いできるのではと思っていたのですが……。

一昨年の鶴子さんのお装履展でお会いしたのが最期になってしまいました。

 

 

初めてお店に伺ったのは、今から25年ほど前。

樋口可奈子さんのロケ撮影が終わった後だったと記憶しています。

 

 

以来、鶴子さんとのおつきあいが始まりまして、

私の教室で開催している東京での新年会には、必ずお出かけくださいました。

ここ数年は体調のすぐれない日もあったはずなのに、常に笑顔の鶴子さん。

彼女が京の風を運んでくださると、

その場の空気ががらりと変わって華やかになりました。

生徒たちにも随分とお土産をご準備してくださいました。

 

出会って間もない時は、女将さんの選ぶ京都の華やかな「色」と、

私の好む「色」に相違があって、随分とやりとりをさせていただきました。

 

何度かのやり取りの末に、花緒が決まると次は前坪。

赤も種類が豊富にあり、鶴子さんにご提案いただいた「赤」に対して、

私が「もう少しトーンを落としてください」とお願いするやりとりがありました。

 

それも回を重ねるうちに、鶴子さんが私の好みを理解してくださるように。

ここ最近はやり取りが少なく、少し寂しい気持ちにも。

とは言うものの、お付き合いの長さ、そして信頼関係や絆が深まっていることも実感しておりました。

 

 

撮影/緒方亜衣

取材・文/笹本絵里