「ケ〆とはじめ -鶴の恩返し-」

四方山話し-2

青鬼さん

 

青鬼さん。

 

青い漆のおぞうりを親しみをこめて、こう呼んでいる。

まだ神戸の香りが恋しい女将には、とても勇気づけられるものとの出会いになったと聞いている。

30年以上前のことというからどれほど覚えていてくださっているかは、分からないけれど、

京都・東山の名骨董店「てっさい堂」の女将に、この裂地の由来について尋ねるために

新しい建物となったお店へと、女将のはきものを携えてお伺いをすることにした。

 

「しばらく時は経っているけれど、確かに私がお譲りしたものです。」

 

いつもの明るくそして芯のある素敵な声で丁寧にお答えくださった。

 

 

これは、野球選手の鉄人、衣笠選手の奥様のお母様、泉由美さんが作られたものだと。

え、鉄人衣笠? 思いがけない名前の出現にグルグル。ちょっと間を置いて理解した。

そう言えば衣笠選手は高校野球の古豪、平安高校、京都の出身。

店の奥から一冊の本を探してくださった。「古布の絵 衣笠正子 紫紅社」

パッチワークの作者、泉由美さんの名前で出版されていない事に、お人柄が垣間見える。

1999年に出版された本には、衣笠選手が序文でこう書いている。

 

「人の目に触れさせようという気が全くなく、勧めても展覧会などの晴れがましい事が全く嫌いな人である。」と

 

 

 

衣笠正子さんが書かれた後書きには、

 

「古布の絵」という素敵な言葉で始まる(古布のパッチワークの事をその様によばれていたそうです)。

「作品は、日本古来の風物や習慣、身の回りの小さなものたちへの愛情を時をかけ、手間をかけて作り上げていった母の綴った日記だと思える。」

そして作者である泉由美さんも「若い頃は洋風のものがお好みであったが古い布との出会いに最高の調和を見出した。」とも。

最後になりますがとして、「この本を上梓することが出来たのも、ひとえに「てっさい堂」貴道裕子さんのおかげと」。

 

 

 

古布との出会い、人の繋がりが、鶴子の日々の戸惑いに明かりを灯す。

祖母や母の生涯を振り返るとそれは時激動の時代、変化の時代。

文化が文明に追い越され、新たな価値観が絶対的な価値観へと置き換わって行く。「新しき事は、良き事かな。」

そんな時代に寄り添いながらも、日本の美しさに耳を傾けて行く朧げな形。

女性たちのバトンがひと針ひと針縫い上げる様に繋がり、この布たちの主人が幾重にも重なっている。

 

「青鬼さん」

 

大切にしていたもの、強く時代を生き抜いた女性の強さと美しさを感じるモノが繋ぎ残されている。